「信用補完」とは、英語のCredit Enhancementの訳です。 Credit(信用)は経済学の用語で、一般に、契約
成立から決済までの時間的乖離において、一方の当事者が相手方の履行に対して抱く信頼のことをいいます。現
代においては特に、「信用」は貸し付けの意味に用いられ、資本主義市場経済に欠くことのできない概念となっ
ています。 取引上の相手方からの信頼を強化(Enhancement)する「信用補完」の典型は、保証人や不動産に
よる物上保証です。国による中小企業向けの信用保証制度もその一例といえるでしょう。 しかし、信用を補完す
る方法はこれらだけにとどまりません。有名なロイズの例に見るように、欧米では古くから、様々なビジネス上
の取り引きを第三者の資産家や企業が保証してきました。近年では、保険料の受け取り債権を債券化して投資家
に販売するケースも見られます。 「信用補完」という名のもとに、保険と金融が融合した新たな世界が生まれて
いるのです。
「信用補完」の基本は、当事者が第三者に保証料を支払い、自らの債務履行を保証してもらうことです。保証
を受けた当事者に対する信頼が高まる結果、より幅広く取り引き相手を探せ、取引条件も有利になります。 現
在、保証を引き受けるのは主に保険会社です。日本とは異なり、欧米の保険会社は企業間取り引きの保証を大き
なビジネスとしています。保証の対象となる取り引きスキームは多種多様であり、引き受ける保険会社の側も再
保険など様々な手法でリスク分散を図っています。 ある企業が持つビジネス上のリスクを多くの保証引受人(保
険会社等)に転嫁することが、「信用補完」の実態であるといえます。欧米ではリスク引き受けの売買を行う電
子市場も設けられるようになっており、火災や地震、さらには特定の台風や流星群の被害にまで保険がかけられ
ています。
企業の財務戦略の視点から「信用補完」を見た場合、その役割は大きく分けて3つあります。 第一の役割は、
自社の資産流動化において発行債券の格付けを高くし、市場での消化をスムーズに行うことです。代表的なABS
債券は本来、裏づけとなる債権の性質、内容によって格付けされますが、ABSの仕組みにおいて、原債権保有
者(オリジネーター)が債権回収者(サービサー)の役割も担う場合、オリジネーターの企業格付けが問題視さ
れることがあります。そうした際に、高格付けの保険会社の保証を付けることで、市場に対する信用が高まるわ
けです。 第二の役割は、市場から資金調達する場合に、その増額を図ることです。昨今、金融機関や投資家は投
融資先の選別傾向を強めており、自社の事業見通しだけでは説得しにくくなっています。そこで、「信用補完」
の手法を使うことで一層の調達額のアップを図るわけです。 第三の役割は、予想されるリスクを外部に転嫁する
ことです。この場合のリスクとは、事業チャンスの拡大に不可欠ながら発生率を予測できないものや、発生した
場合の処理体制が整っていないものなどを含みます。こうしたリスクは、社内で抱えるよりも市場に出し、信用
補完でカバーするほうが合理的です。